この記事を読んでいるあなたは、
おそらく
「仕事はそれなりにやってきた。
でも、家では何もしていない気がする」
という感覚を、
どこかに抱えているのではないだろうか。
私も長い間、そうだった。
製造業に20年以上携わり、
プラスチック製品や金型の製造を生業としてきた。
関わった金型は累計5,000型を超える。
仕事の場では、
「ものをつくる」ことが
自分のアイデンティティだった。
なのに、
家に帰ると不思議なほど
「何もつくっていなかった」。
仕事では5,000型以上つくってきた。でも子どもに何かつくってやったことはなかった
工場で試作を重ね、
製品が世に出るまでの
過程を何度も経験してきた。
しかし気づけば、
子どものために
「何かを手でつくった記憶」が、
ほとんどなかった。
誕生日プレゼントは買ってきた。
壊れたおもちゃは捨てた。
「直せばよかった」と思ったことは
何度もあったが、
そのたびに「忙しいから」と言い訳して、
手を動かさなかった。
仕事ではものづくりのプロなのに、
家ではものをつくる人間ではなかった。
この矛盾に気づいたのは、
ずいぶん後のことだ。
「パパって何つくってるの?」その質問に答えられなかった日
子どもが小学校に上がったある日、
唐突に聞いてきた。
「パパって、仕事で何つくってるの?」
答えようとして、詰まった。
「金型をつくってる」と言ってみたが、
子どもには当然ピンとこない。
「プラスチックの型だよ」と補足しても、
目が泳いでいる。
「じゃあ、これとかこれとか、
こういうものの部品をつくる型を…」
と説明しているうちに、
子どもの視線はすでに別のところに向いていた。
20年間積み上げてきた技術を、
自分の子どもに説明できない。
それがどこか、じわりと刺さった。
「見せればいい」と思ったのは、
その後しばらく経ってからだ。
最初は子どものためのつもりだった,気づいたら自分が楽しんでいた
3Dプリンターを家に置いたのは、
最初は「子どもに見せよう」という動機だった。
仕事で使う工業用のものではなく、
家庭向けの安価な機種。
精度もそこそこで、
正直なところ業務には使えないレベルだ。
でも、
子どもと一緒に何か形にするには、
十分だった。
最初に出力したのは、
子どもが「こんな形がほしい」と言った、
よくわからないオリジナルキャラクターの
フィギュアだった。
造形は雑だった。
でも子どもは喜んだ。
そして気づいたら、
私も楽しんでいた。
仕事でのものづくりは、
常に「誰かの要件」に応えるものだ。
寸法、材質、コスト、納期。
全てに制約がある。
でも子どもと一緒につくるものには、
そういった制約がほとんどない。
「なんとなく、こんな感じ」でいい。
それが、ひどく新鮮だった。
技術者として「教える」のではなく「一緒に失敗する」がちょうどよかった
最初のうちは、
つい「教えよう」としてしまった。
設計の考え方、構造の基本、
なぜこの形にするのか。
職業病のように、
解説をはじめてしまう。
当然、子どもはすぐに飽きる。
あるとき、意図的にやめてみた。
説明するのをやめて、
ただ隣で一緒に触ってみた。
「なんかうまくいかないね」
「こっちにしてみようか」
そういう会話だけをした。
すると、
子どもが動きはじめた。
自分でアイデアを出し、
試し、失敗し、また考える。
その横で、
私は口を出さずに見ていた。
「一緒に失敗する」という関わり方が、
父親としての自分にはちょうどよかった。
教えることより、
隣にいることのほうが大切な場面があると、
そのとき初めて実感した。
親子ものづくりを通じて変わったのは、子どもではなく自分だった
何ヶ月か続けてみて、
気づいたことがある。
子どもの何かが劇的に変わったわけではない。
「創造力が育った」とか
「学力が上がった」とか、そういう話ではない。
変わったのは、
自分のほうだった。
家に帰ることが、
少し楽しみになった。
仕事の疲れが抜けないまま帰宅しても、
「今日は何かつくろうか」
という会話があるだけで、
気持ちの切り替えができた。
子どもが「パパに見せたいものがある」
と言うようになった。
些細なことだが、
それまでとは違う感触だった。
私は子どものためにはじめたつもりだったが、
気づいたら自分が救われていた。
まとめ:難しく考えなくていい。隣に座るだけでいい
ものづくりの経験がなくても、
3Dプリンターがなくても、関係ない。
段ボールでもいい。
粘土でもいい。
割り箸でもいい。
子どもの隣に座って、
「何つくろうか」とつぶやくだけで、
何かが始まる。
父親として「何かをしなければ」と思うより、
「隣にいる」ことのほうがずっと難しくて、
ずっと大切だと、
20年越しにようやく気づいた。
完璧な父親でなくていい。
ものづくりのプロでなくていい。
ただ、
隣に座ること。
それだけでいい。

コメントをお書きください